【福岡】九州最北端・和布刈神社へ — 瀬織津姫を祀る関門海峡の古社と、真冬の海でワカメを刈る「和布刈神事」
関門橋の真下、九州最北端の神社へ
今回訪れたのは、北九州市門司区の和布刈神社です。「和布刈」と書いて「めかり」——初めて見たらまず読めない名前ですが、近年すっかり有名になった神社で、私も今回で3度目か4度目の参拝。今回は思い切って、早朝も早朝に訪ねてみました。
この神社のロケーションは、ちょっと他にありません。鎮座するのは九州の最北端、目の前は本州と九州を隔てる関門海峡。頭上には関門橋が架かり、海の下には関門トンネルが通っています。対岸に見えるのは山口県下関市——つまり本州です。境内には橋を渡る車の走行音が絶えず響いていて、九州の「へり」に立っていることを全身で感じられる場所です。
ご祭神は瀬織津姫 — 長い長い神名を持つ祓いの女神
和布刈神社のご祭神は、撞賢木厳之御魂天疎向津媛命(つきさかきいつのみたま あまさかるむかつひめのみこと)。日本の神様の中でも指折りの長い神名ですが、この女神様こそ、瀬織津姫(せおりつひめ)様のことだといわれています。
瀬織津姫様は、神社で唱えられる大祓詞(おおはらえのことば)に登場する祓いの女神。川の瀬に坐して、人々の罪や穢れを海へと流し去ってくださる神様です。さらに月の女神としての顔も持つと伝えられ、近年は瀬織津姫様を慕う参拝者が全国から訪れる人気の神社になっています。実際、早朝にもかかわらず、境内では熱心にお参りする方の姿を見かけました。
創建はおよそ1800年前 — 神功皇后の伝説と2つの磐座
和布刈神社の創建は仲哀天皇9年と伝わります。西暦でいうとおよそ200年、今から約1800年前。このコラムでもたびたび登場してきた神功皇后(じんぐうこうごう)が、三韓征伐からの帰途にこの地に社を建てたのが始まりとされています。香椎宮や志賀海神社ともつながる、福岡の神功皇后伝説の系譜に連なる古社です。
そして境内で圧倒的な存在感を放つのが、2つの巨大な磐座(いわくら)です。磐座とは、神様が宿るとされる岩のこと。鳥居のすぐ右手にひとつ、そしてもうひとつ、見上げるほどの巨岩が海峡を背にして鎮まっています。社殿が建てられるより前の、岩そのものに祈った時代の信仰を今に伝える光景です。
真冬の未明、神職が海に入る「和布刈神事」
この神社の名前の由来にもなっているのが、旧暦の元旦(毎年1月下旬〜2月頃)の未明に行われる「和布刈神事(めかりしんじ)」です。まだ夜も明けきらぬ真冬の海に、神職の方が3人、石段を降りて入っていき、松明の明かりの中でワカメを刈り取って神前に供える——1800年前から続くと伝えられる、この神社ならではの神事です。境内から海へと降りるあの石段が、神事の舞台になります。
ひとつだけ、真面目な注意を。ここ関門海峡の早鞆の瀬戸は、川のように潮が流れる、日本屈指の潮流の速さで知られる海です。実際に海面を眺めると、その速さに少し怖くなるほど。泳ぎに自信のある方でもまず助かりませんので、興味本位で海に近づくのは絶対にやめてください。
ちなみにこの和布刈神事、松本清張さんの推理小説「時間の習俗」の舞台になったことでも知られていて、境内には清張さんゆかりの碑も残されています。
境内に刻まれた歴史 — 細川忠興の灯籠、宗氏の海中灯籠、平家の伝承
境内を歩くと、この神社が歩んできた歴史の厚みがあちこちに顔を出します。鳥居の前に立つ自然石の灯籠は、初代小倉藩主・細川忠興公が奉納したもの。見るからに細く華奢な石灯籠で、いたずらから守るため、今は大切に保護されています。また、海の上に立つ灯籠は、長崎県の対馬を治めた宗氏が奉納したものと伝わります。
さらに時代を遡れば、ここは平家滅亡の地・壇ノ浦の目と鼻の先。壇ノ浦の合戦を前に、平家一門がこの神社で最後の宴を開いたという伝承も残されています。境内の奥には猿田彦大神の大きな石碑や、朱塗りの美しいお稲荷さん、恵比須様など摂社・末社も点在しているので、時間をかけてゆっくり巡るのがおすすめです。なお、神社の左手に広がる海域では海洋散骨も執り行われているそうで、詳しくは公式サイトで案内されています。
まとめ — 祓いの女神に会いに、門司港とセットで
九州最北端という唯一無二のロケーション、祓いの女神・瀬織津姫様、太古の磐座、そして1800年続く和布刈神事。和布刈神社は、コンパクトな境内に物語がぎゅっと詰まった神社でした。目の前を流れる海峡の潮のように、身についた穢れや心のわだかまりを流してもらいたいとき、きっと力を貸してくださるはずです。
すぐ近くにはレトロな街並みで人気の門司港エリアがあり、焼きカレーなどのグルメも楽しめます。門司港観光と合わせて、九州の最北端まで足を延ばしてみてください。早朝の澄んだ空気の中、海峡を渡る風に吹かれながらのお参りは格別ですよ。
アクセス・基本情報
- 名称
- 和布刈神社
- 住所
- 福岡県北九州市門司区門司3492
- アクセス
- JR「門司港駅」から西鉄バス和布刈方面行きで約10分「和布刈神社前」下車すぐ。門司港レトロ地区から車で約7分。九州自動車道・門司港ICからもすぐ。
- 駐車場
- あり(台数に限りあり。近くの和布刈公園の駐車場も利用できます)
- 時間
- 境内参拝自由(社務所は日中のみ)
- 料金
- 参拝無料